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3月3日 … 「桃の節供」「雛祭」とも称します

0303img02.jpg「明かりをつけましょぼんぼりに お花をあげましょ桃の花 五人ばやしの 笛太鼓 今日はたのしいひな祭り」(サトウハチロー作詞)

童謡「うれしいひなまつり」を歌い心なごむ3月3日は女の子のお祭。一般的には雛祭として親しまれている桃の節供の風物詩として、歌の中でも登場する雛人形はもちろんのこと、現代でも日本各地で伝承されている風習の一つに「流し雛(雛流し)」があります。京都では、下鴨神社境内を流れる御手洗川の流しびなが、桃の節供の風物詩として特に有名です。

雛祭として雛人形が飾られるになったのは江戸時代初期と伝えられていますが、そのルーツといえる「流し雛」の歴史をひもとくと、人形(ひとかた)に自身の穢れを移して流し祓う風習は、古代より日本で存在していたと考えられます(※1)ちなみに「上巳(じょうし)」という節句の由来は、3月3日または3月最初の巳の日に、中国において水辺で禊(みそぎ)や祓(はらい)を行ない、宴会を催す「上巳の祓禊」にさかのぼります。この風習から派生したものに、流水に酒盃を浮かべて歌を詠む風流な「曲水の宴」があり、日本においても奈良時代あたりから特に宮中では盛んでした。

そんな「曲水の宴」も室町時代以降はほとんど行なわれなくなり、入れ替わるようにして新たに定着した行事は、二羽の雄鶏を闘わせる「鶏合(とりあわせ)」でした。そのいっぽうで、江戸時代に入り、上巳は女性の祭りの色彩を帯びてゆきます。雛人形は江戸時代から明治時代にかけて普及したものですし、草餅や桃酒(※2)は雛人形にお供えする飲食物へと変化していきます。

05-03.jpg雛飾りにおける地域性の違いについては、お内裏様(男雛と女雛)の左右があります。京都をはじめ関西方面では、男雛を向かって右、女雛をその左に並べました。そんなお内裏様の配置も、昨今、関西のデパートなどでは、古くから関東方面では採られてきた、男雛を向かって左、女雛をその右に並べるスタイルで陳列されているのを見かけます。

(※1)平安時代中期に編纂された『延喜式』には、何未加津(あまがつ)や這子(ほうこ)といった、人間の身代わりをした形代(かたしろ)についての記載があります。源氏物語の「須磨」にも、源氏が須磨の海岸で上巳の祓いを行ない海に人形を流したことが綴られています。
(※2)中国においては、桃は魔を払い強い生命力を持つ仙木とされていました。旧暦の上巳の時機に咲くことから、3月3日に桃の花を浮かべた酒を飲めば、顔色が良くなり延命長寿を得ると伝えられています。また草餅のルーツは、龍舌絆という古代中国の野草の汁を入れた餅状のものでした。

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京都における上巳の行事・祭事

雛祭
 宝鏡寺  
 (3月1日:島原の太夫が舞を奉納/春の人形展:3月1日〜4月3日)

  • 春・秋の2回人形展があり日頃は非公開の本尊の聖観音像を公開。人形展では御所に伝わる人形などを展示。
  • >>宝鏡寺のウェブサイト

流しびな
 下鴨神社(神事・13:30)

  • さんだ藁に乗せた紙びなを境内を流れる御手洗川に流して子供の健やかな成長を願い災厄を祓う。下鴨神社の流しびなは、京人形商工業協同組合と日本人形協会京都支部の共催で、古式にのっとって執り行なう。
  • >>下鴨神社のウェブサイト

桃花神事
 上賀茂神社(神事・10:00)

  • 上巳の節句に行なわれた古式に則り神前に草餅や桃花・辛夷(こぶし)の花を供え疫病の災いを祓い除け国家安寧を祈念。
  • >>上賀茂神社のウェブサイト

ひいなまつり
 市比売神社(神事・13:00・人びな勢揃い・15:00)  

  • 京都中央市場の守護神で、縁結びをはじめ女性の信仰を集める。一般公募で選ばれた男女が社務所内で雛人形のごとく解説つきで着付けされ、その実演を披露。内裏びな(男雛・女雛),三人官女,五人囃子の生きびなが勢揃いし、官女の舞が奉納される。
  • >>市比売神社のウェブサイト

上巳に味わう飲食物

菱餅

  • 上から桃のピンク・雪の白・草木の緑の3色が重ねられており、雪の下から、草木が芽生え、花が咲く、という生命力を表す。また、この3色の菱餅には、魔除け・清浄・健康長寿の意味が込められている。伸した蓬餅を菱餅として供えることもある。

白酒

  • 邪気を祓い「百歳(ももとせ)」にも通じるとされる桃(もも)の花を浸した桃花酒を飲む古(いにしえ)の習慣があり、それが江戸時代になると、糯(もち)米と米麹を味噌や清酒などに混ぜて白濁させた白酒を飲むようになり今日に至る。

ばらず

  • 酢めしにシイタケ、蓮根、人参、かんぴょう、ちりめんジャコ、ちぢみ麩などの具を混ぜ和え、旬の三つ葉や錦糸たまご(あるいは湯葉)、紅ショウガなどを散らし生の魚は使わないのが京都流。

てっぱい

  • 湯がいたワケギ、赤貝、とり貝を酢味噌(白味噌仕立てで辛子をきかせたもの)で和えた雛料理。

引き千切り

  • 「ひちぎり」とも呼ばれ京都の雛祭りでは長らく食べられている生菓子。名前の由来は小餅を杓子形に引きちぎったことから。現代では餅のかわりに求肥(ぎゅうひ)や蓬(よもぎ)団子などで作られ、丸めた餡(あん)かきんとんがのせられる。

蛤(はまぐり)の潮汁

  • 対になった貝殻以外は合わないことから、夫婦和合や良縁の象徴とされて雛祭りのお膳では欠かせない澄まし汁。


上巳の和歌・俳句

春の苑紅にほふ桃の花 下照る道に出で立つ少女    
 (大伴家持 『万葉集』)

はしやしき我家(わぎへ)の毛桃本しげみ 花のみ咲きて成らざらめやも
 (詠み人知らず 『万葉集』)※毛桃…美しい女性を桃の実に喩えた

向つ峰に立てる桃の木ならめやと 人ぞささやく汝が心ゆめ   
 (詠み人知らず 『万葉集』)

草の戸も住み替わる代ぞ雛の家   (松尾芭蕉)

雛あらば娘あらばと思いけり   (正岡子規)

雛祭る都はづれや桃の月   (与謝蕪村)

掌に飾つて見るや雛の市   (小林一茶)


人日に味わう和菓子の一例(京都を中心に)

ひちぎり      (末富・京都市下京区松原通室町東入ル)
ひちぎり      (二條若狭屋・京都市中京区西大黒町)
あこや       (嘯月・京都市北区紫野)
西王母       (松翁軒・長崎県長崎市)
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参考文献

  • 『日次紀事』(大阪女子大学近世文学研究会編/1882年/前田書店)
  • 『京都 暮らしの大百科』(梅原猛・森谷尅久・市田ひろみ監修/2002年/淡交社)
  • 『季節を祝う 京の五節句』(京都府京都文化博物館編集/2000年/京都府京都文化博物館)
  • 『和菓子づくし 炉編・風炉編』(細田安兵衛・西山松之助監修/2006年/講談社)
  • 『北陸・京滋ふるさと大歳時記』(角川文化振興財団編/1994年/角川書店)
  • 『洛中洛外 京の祭と祭事12カ月』(落合利彦著/1999年/竹内書店新社)
  • 『節供の古典 花と生活文化の歴史』(桜井満著/1993年/雄山閣)
  • 『五節供の楽しみ 七草・雛祭・端午・七夕・重陽』(冷泉為人他著/1996年/淡交社)

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